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Kids Dancing performance

スペシャルインタビュー/作曲家・三竹詩乃氏

第18回公演「Gift~100点満点のハッピーライフ~」
公演記念 スペシャルインタビュー

―作曲家・三竹詩乃氏―

大きな笑顔と、歌声、ハスキーボイスの持ち主、「しのちゃん先生」こと三竹詩乃さん。
Kid’s Dancing Performance(以下KDP)の公演に欠かすことのできない、楽曲を創っています。
本公演の楽曲づくり、そしてKDPに寄せる思いを熱く語ってくれたインタビューです。


作曲家・三竹詩乃 Shino Mitake

―本作「Gift―100点満点のハッピーライフ―」は他の作品に比べて楽曲が多いのが特徴ですね。楽曲づくりで大変だったことはあるのでしょうか?

「ミュージカル」は英語で書くと「music」に「al」をつけた芸術なので、ミュージカルにおける楽曲というのはとても大切な役割を担っていて、海外では演出家よりも先に作曲家の名前が(パンフレットに)載ることもあるくらいなんです。その楽曲を担当していると思うと、今回だけでなく毎回「想いに応えたい」という気持ちからプレッシャーを感じますね。幸せで、重圧を感じるとかではないけれど、早く終わりたいという―出産と同じような感覚です笑
作曲においては、何よりも「子どもたちが歌って、そしてそれはお客様にどう響くのか」ということを一番大切にしています。作曲家が「素晴らしい曲を作りたい」とエゴを出すのではなく、私たちの仕事は3割、あとの7割は子どもたちが舞台で昇華させるもの、と思っています。

 

―楽曲制作において大変なことはどんなことなのでしょうか?

メロディーラインを作ることは案外できてしまうんですが、ホールや舞台のサイズに合わせて曲自体に装飾をする「アレンジ」が大変です。もともと作曲を専門にしていないので、幼少期に父が聞いていた大音量のオーケストラや学生時代の吹奏楽部での経験から、「ブラスがこう入るといいな」「ベースがここで入って、弦楽器がここだな」という見当をつけて、作曲ソフトであらゆる楽器から楽曲に合った音選びやアレンジをするのですが、それに多くの時間を割きます。
6年前かな?にみっちゃん先生に「ミュージカル一緒にやらない?」と声をかけてもらって、一作すべて作曲してみたのですが、初めての作品によくあることで、振り返るととても幼稚で(笑)同作を大きなホールで再演する、というときに作曲ソフトを購入し直して、アレンジも大幅に変更したことがあります。
今年は初めて、楽曲をあえて「完成」させずに現場に持っていき、「今まだ30%くらい、もっと派手になるよ」などと言いながら子どもたちから意見を聞いて完成形まで近づける、という過程にもトライしてみました。もともと100%完成形で持っていくことは少ないのですが、今年は特にその工程が多かったように思います。「音がこうだから、なにかいい言葉ない?」と相談したりして。その過程で「自分だったらこう言いたい」と思って生まれたセリフは、舞台の上でも輝くと思ったんです。

 

―舞台に立つのが子どもたちである、というのも楽曲制作の際に影響はありますか?楽曲制作の時にポイントになるのはどのような点なのでしょうか?

もちろんあります。舞台に参加するメンバーによって年齢の高低が異なり、その結果、歌になる声の性質も違ってくるので。楽曲制作のポイントとしては、観劇してくださるお客様が初めて聞いて覚えやすいように、ポップでキャッチーであることも大切にしています。「このメロディは耳に残るだろうな」という楽曲を変調して、色々なシーンの背景に流すためにアレンジしています。決して手抜きじゃないですよ笑
意外かもしれませんが、映画やドラマでもBGMは大半のシーンで流れていて。音の効果を活用してセリフを乗せることで、セリフの意味を最大限に発揮することができるんです。子どもたちは音楽に合わせてセリフを発しなければいけないので、とても大変だと思うのですが…。

 


 
―今回は小田原三の丸ホールという大きな舞台ですが、楽曲制作の際に影響はあったのでしょうか?

すごくありました!笑
そもそもまったく新しい脚本に楽曲をつけることが4年ぶり、そしてその上に小田原三の丸ホールという大舞台。舞台が大きいと、楽曲も深みを出さねばならず、アレンジがとても大変でした。300人の方に伝わる楽曲と、1,000人の方の2階席まで伝わる楽曲では制作の深さが大きく異なります。音楽も、歌も、振りも、ダンスも、すべてをより遠くまで届けなければならない、という恐ろしいことなんです。それは単純に音量だけの話ではなく、「伝えるエネルギー」がより必要、ということ。私も劇団で全国ツアーをしたことがあるのですが、会場の違いによって「蛇腹合わせ」をするんです。会場の大小に合わせて、適切なエネルギーを届けるための調整なんですが、それに慣れていない子どもたちにとっては大きな壁、チャレンジだと思います。セリフが聞こえない、歌が届かない、となるとすごくもったいないですよね。でも、すごくシンプルに「きっとこの大きな舞台に立つのってワクワクするだろうな」って思うんです。だからみんなで頑張りたいと思っています笑

 

―そんな舞台での本作ですが、作曲家として一番の見どころはどのシーンでしょうか?

パッと思い浮かんだのは、小さな人形たちが歌う「元気を出して」というナンバーのシーンです。
本作では「心のギフト」という曲がもともとの脚本のテーマソングなのですが、脚本を受け取ってから私が最初に作曲したのは実はこの「元気を出して」で。個人的にはこのナンバーがテーマソングだと思っているんです。この世の中で、小さな人形たちが歌うこの曲には「何も武器を持たない強さ」があって、込められたメッセージはきっと大人の方の心にも残る。一番伝えたいことが詰まっている曲なんです。
それから、ロッティーとジャックが歌う「二人の世界」。ファンタジーの幕開けにふさわしいワクワク感のある楽曲なのですが、作曲した時の「こうなるだろうな」っていう想像を超えてくる。そんな素晴らしいことは他にないですよね。
そして、2か月以上悩んだのは冒頭の泥棒一家のシーンです。ミュージカルでも珍しい長時間の芝居の後に楽曲が来るのですが、そこで舞台に引き込まれる楽曲とは?と悩みに悩んで、複数曲を作って。振付の大ちゃん先生は楽曲をよく聞いて振りをつけてくれてとても感謝しているのですが、こんなに振りがつくと歌が歌えなくなる!など、大ちゃん先生とも戦った一曲です笑

 

―楽曲やダンス、ストーリーによって本番はいろいろな感情が押し寄せてくると思います。お客様にはどんなことを感じていただきたいですか?

とにかく、楽しんでください、というのは大前提として。生身の芸術に触れることが難しくなってしまった時代だからこそ、子どもたちの“一生懸命のエネルギー”を全身で浴びていただきたいですね。子どもたちも、大人たちも、こんなに熱く一つの方向に向かえる芸術は他にないですから。
 
 
プロフィール

三竹 詩乃 Shino Mitake/作曲

幼少期より、バトントワリング、ピアノ、トランペットを学び、専門学校のミュージカルコースを卒業。のちにスイセイミュージカルに入団し、全国各地で公演、メインキャストを務める。
退団後はミュージカルスクール講師として全国の子供たちの市民ミュージカルの指導を重ねる。
現在は東京ビジュアルアーツ、芸能事務所ゼロプロジェクト、小田原キッズダンシィングパフォーマンスにてボーカル指導、オリジナルミュージカルの作曲、歌唱指導をしている。ミュージカルスタジオビートの代表として作曲、演出も手がけている。